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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)25号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、本願意匠をもつて、全体として比較する場合、引用意匠と互いに類似するものであるとした点において、判断を誤つたものであり、違法として取消を免れない。すなわち、本願意匠及び引用意匠の各構成が本件審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがなく、両者を比較すると、その間に、本件審決認定のとおりの共通点があるほか、なお、本件審決が挙げたとおりの相違点のあること(これらの事実は、原告の認めて争わないところでもある。)は明らかであるから、両者は、全体としてみるとき、看者に与える美感を異にするものとみるを相当とする。本件審決は、両意匠は、断面を俵型の楕円形とし、全体をほぼ青龍刀の刃先状とし、その内側に波形のえぐりを設けた点を共通にし、これらの共通点は、両者の類否の判断を左右する主要部に関するものであり、原告の指摘する波形のえぐりが一側のみにある点等の差異は、いずれも部分的差異にすぎず、物品全体からみれば(正確には、「意匠全体からみれば」の意か)、前記の共通性を破る程の顕著な差異とは認められない旨説示するが、このような捉え方は、意匠の考察としては、甚だしく雑ぱくなものといわざるをえない。なるほど、例えば、波形のえぐりの点をみれば、波形のえぐりを設けたという点のみを捉えれば、両者は共通性を有するといえるが、本願意匠は、その波形のえぐりを、成立に争いのない甲第二号証の一(本願の願書添付の図面)の正面図、左側面図、A―A線断面図のとおり設けたものであるに対し、引用意匠は、成立に争いのない甲第三号証の正面図、背面図、上面図等に示すとおり設けたものであり、両者は、波形のえぐりの個数、位置及び配列の態様において異なり、したがつて、同じく波形のえぐりを設けたとはいえ、それぞれの奏する意匠的効果を異にするものというべきであるほか、本願意匠は、金具のつけ根部分の側面に柄の長さの三分の一の深さに及ぶ割目がある点、表面に表された小円が比較的大きく、かつ、その数がある間隔をおいて二個である点(これらのことは、当事者間に争いがない。)において引用意匠と相違するのであるから、両意匠を、前掲各図面に表された意匠として全体として観察するときは、当然に看者に与える美感もまた異なるものがあるといわざるをえない。被告は、本願意匠においては波形のえぐりを設けたところに特徴があるのであるから、この点において引用意匠と類似する以上、波形のえぐりが一側にあるか両側にあるか、あるいは、金具のつけ根部分寄りにあるかは、いずれも部分的な差異にすぎない旨主張するが(前掲「被告の答弁」の項(1)、(2)参照)、本願意匠は、波形のえぐりを前掲甲第二号証の一の各図面に示すような形で設けたことに特徴の一つがあることは、右甲号証により明らかなところであるから、被告の右主張は、根拠のない独断を前提とするものであり、到底採用するに値しない。また、被告は、金具のつけ根部分の割れ目について、この部分は金具が挿入されれば消失するものであるから、その有無は、意匠全体の統一ある外観を左右する程のものではない旨主張するが(前同(3)参照)、本願意匠を示すべき図面に明示された構成を全く無視した、このような議論は、意匠全体の考察として、当裁判所の左袒しがたいところである(実際の物品において、金具を挿入した場合、この割れ目模様が全く消失するかどうかも、原告の指摘するとおり、大きい疑問である。)。更に被告は、柄の表面に表された小円は、金具部分を留めるためのものであるから、意匠全体の統一ある外観を左右する程のものではない旨主張するが(前同(4)参照)、その物理的機能から意匠的効果を否定し去ることができないことはいうまでもないから、その小円が外観的に存在する以上、その目的のみから、その意匠としての効果を全く無視すべきでないことはいうまでもない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。

〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

請求の原因

原告代表者は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一 特許庁における手続の経緯

兼村要は、昭和四十一年三月一日、「厨房具用の柄」を意匠に係る物品とする別紙図面の意匠につき、意匠登録の出願をしたところ、昭和四十三年十月二十九日、拒絶査定を受けたので、昭和四十四年三月二十二日、これに対する審判を請求し、昭和四十四年審判第一、九〇四号事件として審理され、原告は、昭和四十七年十一月二十五日、兼村要から本願登録を受ける権利を譲り受け、同日、その旨被告に届出たが、昭和四十八年十一月十四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は、昭和四十九年一月二十八日、原告に送達された。

二 本件審決理由の要点

本願意匠は、断面を俵型の楕円形とし、金物のつけ根の部分から他端へ向つて青龍刀の刃先状にやや巾を広くしながら一方方向へゆるやかな曲線を描き、外側の曲線を長く、内側の曲線を短くし、その両端を斜めに直線的に結び、外側の曲線の頂点を鋭角に、内側の曲線の頂点を鈍角に表したもので、その各頂点は丸味をつけたものであつて、その内側の片側の金物のつけ根の部分から中央にかけて、波形のえぐりを設けて指掛け部を形成し、金物のつけ根の部分の側面には、長さの約三分の一の深さに金物の根元部を挿入する割れ目が設けてあり、その表面には金物を固定する穴が二箇表されている態様からなるものである。

これに対し、本願出願前公知の意匠公報(意匠登録第一四五、八三二号のもの。)所載のフオークの図面中に示された柄の意匠(以下「引用意匠」という。)は、断面を俵型の楕円形とし、金物のつけ根の部分から柄の端部へ向つて青龍刀の刃先状にやや巾を広くしながら一方方向へゆるやかな曲線を描き、外側の曲線を長く、内側の曲線を短くし、その両端を斜めに直線的に結び、外側の曲線の頂点を鋭角に、内側の曲線の頂点を鈍角に表したもので、その各頂点は丸味をつけたものであつて、その内側の両側には波形のえぐりを設けて指掛け部を形成し、表面の金物のつけ根寄りには小円を表した態様からなるものである。

両意匠を対比するに、両者はともに、断面を俵型の楕円形とし、全体をほぼ青龍刀の刃先状に形成した構成及びその内側に波形のえぐりを設けた点を共通とし、これらは両意匠の基本的な構成に関し、とりわけ、その内側の部分に波形のえぐりを設けた点は最も強く看者の注意を引くところであるから、前記の共通点は、両者の類否判断を左右する主要部に関する。他方、前記の波形のえぐりが一側と両側にある点、その配置、金具のつけ根部分の側面の割れ目の有無及び表面に表された小円の数などに差異があるが、これらの差異は、前記の基本的な構成の共通性を破る程の顕著なものということができないから、物品全体からみれば、いずれも部分的な差異にすぎない。

以上のとおりであるから、全体としての両意匠は類似するものと判断される。したがつて、本願意匠は意匠法第三条第一項第三号の規定に該当し、登録を受けることができないものである。

三 本件審決を取り消すべき事由

本願意匠及び引用意匠の各構成並びに両者の共通点及び相違点がいずれも本件審決認定のとおりであることは争わないが、本件審決は、両者の相違点をもつて、物品全体からみれば部分的な差異にすぎず、基本的な構成の共通性を破る程の顕著な差異とはいえないとした点において、判断を誤つたものであり、違法として取り消されるべきである。すなわち、本願意匠は、本件審決も認定するように、波形のえぐりが一側にあり、その形状、箇数、位置及びうろこ状をなす配列の態様並びに金具のつけ根部分の側面に割れ目を有し、表面には二箇の小円が表されている点など引用意匠と差異があり、これにより引用意匠にはない創作性を有し、看者に引用意匠とは異なる美感を与えるものである。被告は、波形のえぐりが一側にあるか両側にあるかは部分的な差異にすぎない旨主張するが、本願意匠は、前記のような波形のえぐりの形状、箇数、位置及び配列の態様の総合に特徴があるものであるから、波形のえぐりが一側にあることだけを捉えて部分的差異とするのは誤りである。また、金具のつけ根部分の側面の割れ目部分は、金具部分が挿入された場合、消失するという被告の主張は、事実に反するものであり、金具部分が挿入されても割れ目部分はなお残るし、更に、本願意匠の表面に表された小円をもつて金具部分を留めるものと断定することはできない。のみならず、小円が金具部分を留めるものであるかどうかの点は、本件審決の認定と関係のない事実である。

被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

原告の主張事実中、特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点が、原告主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。本件審決の認定、判断は正当であり、原告主張のような違法の点はない。

本願意匠及び引用意匠間に存する原告主張の差異は、いずれも部分的少差にすぎないから、両意匠の類否判断を左右するに足りない。すなわち、(1)本願意匠のように扁平な形状を有する物品が使用時において一般に見られる状態は、表裏いずれかの一側であり、その場合、特徴ある側面が看者の注意を強く引くのが普通であり、かつ、本願意匠においては波形のえぐりを設けたところに特徴があるのであるから、この点において引用意匠と類似する以上、波形のえぐりが一側にあるか両側にあるかは、部分的な差異にすぎない。(2)本願意匠と引用意匠とでは、波形のえぐりを設けた配置に差異があるが、両意匠とも互いに共通する形状の柄の内側に、共通の波形のえぐりを設けて指掛け部とした点に特徴があるのであり、そのえぐりが金具のつけ根部分寄りにあるか、やや端部寄りにあるかは、部分的な差異にすぎない。また、(3)金具のつけ根部分の側面の割れ目は、ここに金具部分が入るための溝であつて、金具部分が挿入された場合、割れ目は消失するから、この割れ目の有無は、意匠全体の統一ある外観を左右する程のものではなく、部分的な差異にすぎない。更に、(4)本願意匠と引用意匠とでは、表面に表された小円の数に相違があるが、この小円は、通常の構造としては、金具部分を留めるためのものであり、意匠全体の統一ある外観を左右する程のものではないから、この点の差異は、部分的なものにすぎない。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

<省略>

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